ぐり茶は煎茶に比べて生産量が少なく、少し珍しいお茶なので、聞いたことがない方も多いのではないでしょうか。ぐり茶の茶葉は、グリグリとした球状に近い外観をしています。見た目が変わった茶葉のぐり茶は、香りや味もほかのお茶とは違った魅力があるお茶です。今回はぐり茶の製法や歴史、味わいなどから、独特の魅力を紐解いていきましょう。
ぐり茶とは
ぐり茶とは、玉露や煎茶といった日本茶(緑茶)の一種です。茶葉が勾玉状にぐりっとよじれて丸まっていることから、ぐり茶と呼ばれるようになりました。はじめは伊豆地方のみで、ぐり茶と呼ばれていましたが、近年では全国に広まり、一般的な名称として定着しています。正式な名前は、蒸し製玉緑茶です。蒸し製玉緑茶は静岡の伊豆、牧之原、掛川、島田、沼津そして九州の長崎、佐賀、熊本などで主に作られています。
ぐりっとした形になるのはなぜ
煎茶の茶葉は、針のようにまっすぐな形をしていますが、ぐり茶の茶葉は丸まった形をしています。なぜ煎茶とは違った形になるかといいますと、茶葉を作る工程で精揉という茶葉を針のようにまっすぐ整える工程がなく、再乾(さいかん)という工程で仕上げるからです。特有のぐりっとした形は、中揉(ちゅうじゅう)や再乾の工程で、揉みながら茶葉を乾燥させることでできます。回る機械の中で、茶葉は丸みを帯びた形になるのです。精揉の工程で揉まないので、茶の成分を抽出しやすく、茶葉がもともともっている旨味を逃さず、渋みを抑えた本来の味を引きだせるのです。
また玉緑茶には、蒸し製と釜炒り製の2種類があります。釜炒り製玉緑茶は、以前に中国から伝わったもので、釜炒り茶や、カマグリとも呼ばれています。名前からもわかるように、蒸すのではなく、釜で炒って茶葉の発酵を止めるのです。釜炒り製玉緑茶は、蒸し製玉緑茶とはまた違った味で、香ばしい強い釜香があります。茶葉を炒っているので、水色は少し赤みのある透き通った色です。九州では釜炒り製玉緑茶と区別するために、蒸し製玉緑茶を蒸しぐりと呼ぶこともあります。効率がよいため、現在は釜炒り製玉緑茶より蒸し製玉緑茶の方が多く生産されています。
蒸し製玉緑茶の誕生
蒸し製玉緑茶は、昭和初期にロシアに輸出するために静岡で考案され、生産されはじめました。中国茶がよく消費されていた現地の人々の嗜好に合わせて、中国で作られる釜炒り茶に似た、苦みが少なく丸まった外観の茶葉を考案しました。そうして生まれたのが、蒸し製玉緑茶すなわち、ぐり茶です。従来の茶より蒸す時間を長くして苦みを軽減し、精揉をしないことで釜炒り茶のような外観の丸まった茶葉を生産しました。
その結果、蒸し製玉緑茶はロシアに受け入れられ、多く生産されるようになります。続いて、北アフリカ、アフガニスタン、インドなどにも販路を拡大し、生産され続けました。しかし時がたつにつれ輸出量は減少し、輸出されなくなった後は、高まる日本国内の需要に向けて作られるようになっていきます。
渋みが少なくまろやかな味わいが特徴
ぐり茶は苦みや渋みが少なく、まろやかな甘みがあるのが特徴です。茶葉の中までしっかり蒸しているので、茶葉は粉っぽくなるのですが、美しい緑の水色が鮮やかで、お茶特有の濃い味を味わえます。茶葉を摘むとすぐ始まる発酵を止めるために、蒸して加熱する工程で、ぐり茶は煎茶のおよそ2倍の時間をかけて蒸すのです。茶葉の芯まで蒸すことで旨味などが出て、茶葉も細かくなります。
また精揉という形を針のように整える工程がないので、茶葉を傷めることなく成分が抽出しやすくなり、渋みが抑えられ甘さや、味の濃さを楽しめます。ぐり茶は渋みや苦みが少ないのに濃厚な風味も楽しめるので、ぐり茶を使ったソフトクリームやプリンなどのスイーツも販売されていて、風味をいかした美味しさは高い人気があります。
美味しいお茶として近年注目されている
ぐり茶と呼ばれる蒸し製玉緑茶。生産している量がかなり少ないため、見かけることがなく、味わう機会がない方も多いと思いますが、独特で素晴らしい風味は今、注目を集めているのです。日本茶AWARDという、多分野の専門家の審査員による1次・2次審査の後に、消費者による3次審査で大賞を決める日本茶の品評会があります。日本茶AWARDは新たな観点で個性的な日本茶を発掘し、さまざまなお茶の香りや美味しさを世界に発信するものです。2021年に行われた日本茶AWARD2021では、長崎県の有限会社西海園の蒸し製玉緑茶が、日本茶準大賞を獲得しています。
2018年開催の日本茶AWARD2018では、長崎県の有限会社茶友の蒸し製玉緑茶が日本茶大賞、そして長崎県の原田製茶の蒸し製玉緑茶が準大賞に選ばれました。消費者も選んだ日本茶の1位や2位が蒸し製玉緑茶であったことから、ぐり茶はかなり多くの方の嗜好に合う、可能性をもった魅力的な美味しいお茶といえるのではないでしょうか。
まとめ
今回は特徴や味などを交えながら、ぐり茶の魅力をお伝えしました。精揉しないため、丸みを帯びた茶葉が特徴のぐり茶。耳馴染みのないお茶かもしれませんが、苦みや渋みが苦手な方にも、さわやかな香りと甘みを感じる濃厚な味わいのぐり茶は、飲みやすくおすすめです。暑い季節は、水出しも楽しめます。また、やさしい飲み心地はほっとするのでリラックスタイムや、繊細な味の料理にもぴったりです。美味しいお茶として、消費者も評価するぐり茶の素晴らしい風味を、ぜひ一度味わってみてはいかがでしょうか。